血を吐いて倒れるお嬢様と、無情にして非情な父親 (湘南日記)

藤沢みのる

某月某日、藤沢みのるの鰻は素晴らしい… という話ではない。

もちろん藤沢の名店ビルにある「みのる」という鰻屋や素晴らしい。そういえばスーパー友人Xが教えてくれたけど、駅前にある湘南を代表するシンボルである「名店ビル」の旧名称は、「みのる百貨店」だったそうだ。
そう、つまり「みのる」はビルオーナーだったのだ。
(住民は知っているけど、あのビルは3つのビルが合体したもの。厳密にいうと、その一つ)

雨の日も、風の日も、せっせと鰻を焼き続けるご主人… それだけでも、湘南地方に住む価値はあると言いたい。
(残念ながら最近は流石に二代目もお歳を召されたせいか、日曜日は定休日となっている)

僕もそれなりの人生を送って来たと思う。
そしてタイトルの通り、悩ましいのは我らがお嬢様である。

あの…… 泣いても良いでしょうか。
もう4月からは中学三年生だけれども、スケジュール帳の記述内容が素晴らし過ぎる。
うーん、この年頃は個人差が大きいとは聞いていたけれども、ちょっと、なあ… である。

面接時には中学校の前校長先生から、「稀にしか見かけない逸材」と太鼓判を推された。父親から見ても、自分などは及ぶべくもなく、我が自慢の兄弟並みの素質を持っている。

….. そう、素質は素晴らしいけれども、それを活かせていないのだ。
世間では、よくある話である。

僕の叔父さんでは、風呂の中で人生を終えた人がいる。
末弟として不自由なく育ち、父親からガソリンスタンドを譲られた。
しかし不自由なく育った人の特徴というか、性格は陽気でほがらかだったけれども、経営者としては通用しなかった。
最後はサ・ケに溺れて、家族や親族に迷惑をかけた挙句、文字通り溺れて…… である。

パターン的には、叔父によく似ているよなあ…… と思うのである。
アニメの推しキャラのクリアファイル配布を目指して、港南台にあるファミレスに向けて旅立った。
しかし僕がチェックしたら、配布期間は1月18日~1月31日だった。
1月28日に行っても、そりゃまあ普通はもう在庫終了……. チーンである。
(進撃の巨人を目指して献血へ行った僕も同じだけれども、こちらは代わりに山ガールを得た。その方がオジサンとしては幸せな結果だったかもしれない)

その後でウサ晴らしにカラオケを予約したけれども、そこでカラオケ曲を予約するためのアプリケーションがインストールできなかったことを失念していたとのことだ。
まだ中学生だから、子供向け機能制限が付いているのだ。

そこら辺を想定し、父は事前に非学校向けスマホを休日に貸し出すと言っていたんだけどなあ… である。

結局のところは1月30日のクラス選定テストの準備を全くすることなく、とぼとぼと帰宅した。
本人は運が悪かったと思っているらしいが、父親から見ると準備不足である。
世の中を舐めているから、上手に渡っていくことができない。
父親が近くにいなければ、ついつい子供っぽく、遊ぶことに夢中になってしまう。
中学二年生らしく「超越的な力」に憧れて、厨ニらしいフィクションに夢中である。
(人間ドラマでなく、ちょーのーりょく… 超能力とかに憧れている。香ばしさ一杯である)

で、夜になって血を流す羽目になった。

新基本英文700選

一周したハズの新基本英文、念のためにチェックしたら、どれが主節の動詞であるか判別しきれていない。つまり、基本的な英文法が理解できていない。
うーん。
中学二年生には少し難易度が高いと思ったけれども、ここまで理解しきれていないとは予想していなかった。
ていねいに説明したつもりだったが、全く通用しなかったらしい。

まだ子供だから、夜の疲れた時には機嫌も悪くなる。
こっちだってやりたくはないけど、基礎学習ができるのは、若いうちだけだ。
僕なんて、会社では中学校までの義務教育で習ったことしか使っていない。
総理大臣がリ・スキルとか恰好良いこといったって、大切なのは「基礎を十分に身につけること」なのである。
やれやれ。

「父ちゃんは私が理解できないことが理解できてしなかったのか! へんっ!」
と、彼女は子供っぽく言い放った。
父ちゃん、エスパーじゃねえよ。
分からないのであれば、「わからない」とか「ついていけない」と言われないと状況把握できねーよ。

ともかく、まだ新基本英文700選に取り組むには、無理があることが分かった。
そうなると、やることは三択問題ではなく、一択ルートと化して来る。

父ちゃんは尋ねる。
「君、塾でK先生から何を教えて貰っているのかな」
「何をって、何を?」
「いや、たとえば具体的に何をやっているかとか」
と、僕は疲れて不機嫌な子供へ尋ねる。

「学校のテキストを、解説してくれているんだけど」
ようやく手掛かりになるヒントが出されて来た。

「なるほど。では土日は、教えて貰ったことを父へ説明して貰うことにしようか」
「ぐえっ」
半ば予期していたけれども、血を吐くような反応が返ってきた。
「父ちゃんは、あたしにトドメを刺すつもりかっ!」
「だって、習ったことを復習して血肉にするのは、最も効率の良い勉強方法だろ。と、言うか、せっかく塾で教えて貰っていることを身につけないの、もったいないぞ」
父ちゃん、こう見えても倹約家的な面もある。
ともかく、どうせやらなければならないのであれば、最も効率の良いルートを選択する。
勉強の王道である。

子供っぽく生まれながらの超能力とやらに憧れることは否定しないけれども、大切なのは基本を地道に積み重ねることだ。
そうやって、人は必殺技を身につけていくのだ。

英語しかり、サバゲーの瞬間二連射しかり、野球やサッカーしかり、音楽なんぞはセンスとチリツモの集大成だ。

そして母親も、トドメに加わる。
「そうよ、それよ。とても良いアイディアだわ。教わったことを他人へ教える!」

で、今回は非情にして無情な父親のせいで、血を吐いて倒れる者が若干一名ほど生じてしまったのだった。

小田急線の藤沢駅

小田急線の藤沢駅からは、片瀬江ノ島方向と、新宿方向で線路の形状が「人」のようになっている。
もしかしたら今回は小田急江ノ島線のように、どちらかの進行方向を選択してしまったのかもしれない。

ただし我が家で生じたのは、あくまで「選択」である。
それだけでは意味がなく、実際に土日に「習ったことの復習」を積み重ねていくことが必要となる。

ともかく、まだまだ目を離すことのできないお嬢様なのだった。
(僕は未だに厨二魂を持ち合わせているが、それでもミステリー系なんだけどなあ)

それでは今回は、この辺で。今回もおつきあい頂き、ありがとうございました。
ではまた。

————————
記事作成:小野谷静