続・三本のフランクフルト物語 (第ニ部:横浜野田岩編)

横浜高島屋

さて待望の横浜野田岩編だ。やっぱりウナギの蒲焼は、日本人のソウル・フードですな。

どこのスーパーでも販売されている一方で、ミシェランの星付きウナギ専門店まで存在するのが、日本のウナギ社会。

そういえば、ぼくが毎晩寝ている場所も “うなぎの寝床” である。

日本を支えているのは、ウナギだと言えるかもしれない。(あの体で、どうやって支えるのか分からないけど)

横浜野田岩の本店

さて老人ホームな実家(介護付きマンション)だが、今は一緒に食事することが禁止されている。それと同時に、面会時間も30分に制限されている。
だからぼくは実家で母親に別れを告げると、家路についた。
と、いっても、まっすぐ帰宅する訳ではない。途中の横浜駅で、ひさしぶりに鰻重にありつこうという魂胆だ。
目指すは鰻の横浜野田岩、それも駅から徒歩8分程度の本店だ。

何しろ横浜野田岩の本店は、スタッフの雰囲気が気持ち良い。
もちろん横浜高島屋店も悪くないけれども、あちらは行列が出来ていることが多い。だからスタッフはキビキビと動き、ちゃっちゃと物事が進む。
その点で本店は行列が道路に出来る光景を見たことがなく、雰囲気がゆったりしている。だからどちらでも構わない時は、雨が降っていても本店へ赴くことが多い。
そんな訳で今日も本店を目指した。
電車の中では、おばちゃんたちの会話を聞きながら、もっとママの話を聞こうと考えるようになった。
そんなぼくが終点の横浜駅に到着したのは11時50分。最も混雑する時間帯になってしまった。
だから最初は店へ電話しようと思っていたけれども、少しでも早く着いた方が良かろうと、スマホをポケットに入れて歩き出した。

桜はちょうど見頃で、わざわざ川沿いの桜並木を選んで歩く人も多い。河合塾の生徒さんも、二階の入口からスマホで桜並木を撮影している。美味しそうなアメリカンドックを食べている若者たちもいる。

そんな中を、ひたすら横浜野田岩を目指して歩く。少しでも早く到着しようと、歩き続ける。全ては鰻重のためだ。
東京駅と違って、それほど混雑することはない街だ。横浜というとイメージは良いらしいけれども、実は小都会に過ぎない。
(なぜか職場のみんなは、横浜はオシャレだというイメージが定着しているとのことだ)

辻仁成さんの滞仏日記を拝読していると、パリから出て行こうと考える人が多いらしい。
しかし横浜は東京と違って、人混みに怯えながら生きる必要はない。横浜の住人は、横浜から出て行く必要はない。
我が家はママが浜っ子の関係で、何度も横浜駅まで車で来たこともある。ぼくでさえ安心して車で動ける街、それが横浜なのだ。
鰻専門店だって、幾つもある。最近では小説やエッセイで取り上げられた八十八も復活している。

そんな陽気なことを考えていたのが、良くなかったのかもしれない。
横浜野田岩の本店が視界に入ったのに、何かいつもと店構えが違うことに気づくのが遅れた。なにやら店の入口が、雨戸で閉められているみたいだ。

そうなのだ。野田岩には長期休業となる時期があって、正月、年度末、お盆時期などは要注意なのだ。それを半ば承知でスマホをポケットに入れて、駅から歩き出した。しかし、いざ本当に閉店しているとショックを受ける。このあたりの反応パターンは、いかにもぼくらしい。
とりあえず滅多にお目にかかれない光景なので貼り紙を撮影させて頂き、家族や友人たちに一報する。「きゃー」っと。

でも横浜野田岩の本店が他店とちょっと違うのは、駅前の高島屋にも横浜野田岩が存在するのだ。このあたりはタクシー移動が必要な都内の野田岩とは違う。
横浜高島屋から特別食堂が消え去って久しいけれども、五階のローズダイニング付近に店舗が構えられている。
そして一年前と違って、横浜高島屋は休業していない。だから横浜野田岩の高島屋店も営業しているという訳だ。
それで今度は駅に向かって、今までとは逆方向に戻り始めた。今度はそんなに急ぐ必要はない。

今までの数回の訪店経験からすると、もう待ち行列は最長になっている。だから今から待ち行列に並ぼうという人たちは、経験者に限られている。
だから慌てずに冒頭画像のような場所で立ち止まり、のんびり「桜と横浜高島屋」を撮影できる訳だ。いや、正直に言おう。しくじって電話しなかったということを、心の底では認めたくないのだ。
だって認めたら、今ここの場所にいる自分が情けなくなってしまう。それを防ぐ必要がある。
実はセコくて卑怯で、ちっちゃい、ちっちゃい人間なんです、ぼく。

でも自分がどんな人間であろうと、鰻重は鰻重だ。
マンガの “じゃりン子チエ” でも、「ひもじい、寒い、もう死にたい … 不幸はこの順番で来ますのや」と、”おばあはん” も屋台ラーメンで無理やり腹ごしらえをした。
だから腹ごしらえは重要だ。特に今日は、鰻重のために朝飯を食べていない。見得張ってゆっくり歩いてでも、ともかく横浜高島屋の野田岩を目指す。もしも営業していなかったら、その時はその時だ。”おばあはん” も、考え過ぎてノイローゼにならないようにと忠告してくれている。
(幸い今は春で、ジャケットも脱ぐほどの陽気だけど)

横浜野田岩の高島屋店

たしかに全く心配する必要もなく、高島屋横浜店はいつものように通常営業していた。階段を上り、五階へ行く。予約表に名前を書き込む時に確認したら、目安は90分待ちだった。
でも大丈夫。今までの経験から、野田岩が多めに時間を見積もっているのは分かっている。それに今日は実家での作業用にIT機器を準備して来たので、イスさえあれば仕事できる。

iPadとLiquidLogic

これがぼくの新環境だ。12.9インチ版iPad ProとApple Magic Keyboardの組み合わせ。それをボードの上に収めているので、膝の上でノートパソコンみたいに使える。ものすごく安定していて、電車の中でも全く問題ない。
もちろんMacbook Pro Mid 2009を持参しても良かったけれども、こちらの方が軽くて便利だ。すぐにiPad Proだけ取り出して使うことも出来るので、機動性が高い。
おかげで退屈する暇もなく、LiquidLogicというテキストエディタ兼htmlエディタで、次々と文章を打ち込んでいく。ちょっとした約束をしたので、休日中にブログ記事を一つ作成する必要があるのだ。そうでなくても、当ブログを大至急で充実させていく必要もある。
何しろ今日の鰻重代は、ブログの収益で回収されるという構図になっている。
量でも質でもプロには敵わないけれども、せめて量(ブログ記事数)はアマチュアなりに確保したい。

と、いう訳で、あっという間に一時間が過ぎ去った頃、受付さんから名前を呼ばれた。
「えーっ、一名でお待ちの “おのたに” さま、”おのたに” さまーはいらっしゃいますか」
と、いう訳で、本日二回目の検温と指先消毒の後、ぼくは店内へと案内されたのだった。
そしていつも通り、10分で鰻重は降臨した。今日も横浜野田岩が誇る “椿” だ。

横浜野田岩の椿

鰻重でなくて納豆重でも大満足できるぼくだけれども、せっかく横浜に来たからには鰻重で攻めたい。厳しい勝負の世界に生きる者には、息抜きも必要だ … って、何の勝負をしているのかは自分でも分からないけど。

ところで鰻重というのは難しくて、職人さんは「この鰻はイマイチだから捨てよう」ということが出来ない。そして仕入れはどんなに頑張っても、どうしても一匹もハズレなしということは起こり得ない。
だから稀にハズレとなることもあるんだけれども、今日の鰻重もサイコーだった。うん、これだけ美味しい鰻重を食べることが出来たんだから、今日も、そしてこれからも、まだまだぼくは頑張ることは出来るだろう。
そう思いながら、ありがたく一気に重箱を空にしたのだった。

横浜野田岩のレジ隣

物事をポジティブに見ることができるようになると、視野が広がることもある。
今日の野田岩で印象的だったのは、お客さんの会話とレジ隣だ。

お客さんの会話に関しては、なんでも職場の同僚が結婚しないで事実婚しているとか何とかを話題にしている人がいた。人が何かを話す時には、必ず背景となる理由がある。最近のぼくは、その理由に興味を持つようになっている。
(今回は単に有名人の事実婚がTVで報道されただけかもしれない。しかしそうすると今度は、どうしてTVが報道したのかが気になって来る。そういやNHKに勤めている高校先輩もいたな)

それからレジが空いたと思って会計に行ったら、おじいちゃんがのんびりと清算していた。おかげでレジの隣を、初めてじっくりと見学することが出来た。

今まで一升瓶しか知らなかったけれども、明らかに一升瓶じゃない。お店に許可を頂いて、撮影させて頂いた。

益々繁盛

「いつもにこにこ笑っていたい
 毎日毎日 七笑いすると
 福と得が来る」

そういえば昔の上司も新人に対して、いつも笑うことを指導していた。全くその通りだと思う。

ちなみに気になって調べてみたら、これは二升五合の瓶らしい。
つまり一升(ます)・一升(ます)・半升(はんます=しょう)で、益々繁盛という意味だ。

なるほどなあ。
昔の人は、こういうことを考えるのが上手かったなあ、と思う。それにこの二升五合の瓶、ビジネスでのプレゼント用に使えそうだ。検索していたら、今でも販売しているお店があることが分かった。

それにしても … 画像の通りで、あちこちぶつかった形跡がある。なんかいろんなものを見て過ごして来た瓶のようで、巨大サイズという点を抜きにしても興味深い。

これだけでも物語のネタになりそうで、やっぱり作文ネタはアチコチに転がっているなあと思う。

[chat face=”mikan2.jpg” name=”Mikanお嬢様” align=”left” border=”gray” bg=”none” style=”maru”]分かった分かった[/chat]

結局12時10分頃に到着して、13時10分頃に入店して、13時20分頃から食べ始めて、13時30分に「お会計」だった。
レシートを見ると、2021年3月27日13時32分21秒となっている。待ち時間の間には手洗いへも行けたし、なかなか悪くないと思う。
(煌びやかなデパートの中なので、家族とくると財布に負担をかけそうな気がするけど)

[chat face=”mikan2.jpg” name=”Mikanお嬢様” align=”left” border=”gray” bg=”none” style=”maru”]今度連れて行ってくれるという約束だからねー[/chat]

まとめ(第三部へ続く)

そんな訳で、今回も満足すると同時に、新しい発見のあった横浜野田岩だった。
そしてこういう発見をすると、自分の行動パターンが変わって来る。
今までは横浜野田岩から横浜駅へ直行していたけど、今回は高島屋地下街でお土産を買ってみようという気持ちになった。
(3月14日は何も出来なかったし)

しかしこの思いつきによる行動が、また新たな、そして2021年3月27日における最大の物語の生み出してしまったのだった。

そんな訳で、恐ろしいことにフランクフルトを冠した一連のストーリーは、何と三部構成となってしまったのである。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静 (おのせー)